沖縄の庭先や畑のまわりで、背の高い株に大きな葉を茂らせている植物。それが月桃(げっとう)です。旧暦12月8日のムーチーを包む葉として、なじみのある方も多いのではないでしょうか。
ただ、「月桃ってどんな植物?」と聞かれると、意外と答えに迷うかもしれません。
この記事では、月桃の特徴や似た植物との見分け方、ムーチーをはじめとする沖縄文化との関わり、葉や精油の使い方までまとめました。
この記事のポイント
- 月桃はショウガ科の常緑多年草で、沖縄ではサンニンと呼ばれます。
- 房になって垂れ下がる花が、よく似たクマタケランと見分けるときの目印です。
- 旧暦12月8日に供えるムーチーは、月桃の葉で餅を包んで蒸したものです。
- ムーチーを包んだ葉は十字形に結んで「サン」にし、厄除けとして入口や軒先に吊るします。
- 葉、葉鞘、精油、種子、根茎と、部位ごとに違った使い道があります。
- 畑の赤土流出を防ぐグリーンベルトにも使われています。
月桃(ゲットウ)とは?
月桃は、沖縄で「サンニン」の名で親しまれているショウガ科の常緑多年草です。九州南部から沖縄、小笠原、台湾、東南アジアにかけて分布し、鹿児島県の佐多岬が自生の北限とされています。沖縄では本島から離島まで、庭先や畑のあぜ道などいたるところで見られます。
葉は食べ物を包み、茎は縄になり、種子や根茎は薬用に。古くから部位ごとに使い分けられてきた、暮らしに近い植物のひとつです。
沖縄での呼び名は「サンニン」。奄美や種子島ではサネン、南大東島ではソウカと、地域によって呼び方が少しずつ変わります。サンニンの由来には、漢方薬の「砂仁」からきたという説や、花が咲くまでに3年かかるからという説があり、はっきりとは分かっていません。
月桃の基本情報
月桃の基本情報は以下のとおりです。学名は以前「Alpinia speciosa」と表記されていたため、古い資料ではこちらの名前で載っていることもあります。
| 項目 | 内容 |
|---|
| 和名 | ゲットウ(月桃) |
| 学名 | Alpinia zerumbet(旧 Alpinia speciosa) |
| 英名 | Shell ginger |
| 分類 | ショウガ科の常緑多年草 |
| 分布 | 九州南部、沖縄、小笠原、台湾、東南アジア |
| 高さ | 1〜3m |
| 葉 | 長楕円形で長さ50〜80cm |
| 花 | 白色から淡紅色で、房になって垂れ下がる |
| 実 | 球形で長さ2cmほど |
| 沖縄での呼び名 | サンニン(南大東島ではソウカ) |
月桃の特徴
月桃の特徴は、人の背丈を超えることもある大きな株と、房になって垂れ下がる花です。比較的丈夫で手がかからないため、沖縄では民家のそばや畑の周りによく植えられてきました。八重山の竹富町では、町の花にも指定されています。
葉・花・実の見た目
月桃は高さ1〜3mほどになり、長さ40〜80cmほどの細長い葉を茂らせます。葉の先はすっととがり、縁には細かな毛が並んでいます。香りがもっとも強いのも、この葉の部分です。
花は長さ20〜30cmの房になって垂れ下がります。白から淡紅色のつぼみが開くと、内側から唇弁(しんべん、花の中央にある大きな花びら)がのぞきます。黄色地に紅色の筋が入った、あざやかな色合いです。英語では「Shell ginger(シェルジンジャー)」と呼ばれています。
花が咲くのは初夏のころ。花のあとには、長さ2cmほどの丸い実をつけます。
生育環境と育てやすさ
月桃は沖縄の土や気候によくなじみ、比較的育てやすい植物です。主な特徴は次の3つです。
- 本島北部の酸性土壌にも、南部のアルカリ性土壌にも自生していて、土の性質を選ばずに育ちます。
- 庭先や畑沿いでは特別な管理をしなくても育ち、害虫もほとんどつかないことが経験的に知られています。
- 台風のあとの海岸沿いでも、葉が裂けることはあっても、株ごと枯れることはほとんどありません。
ただし、植え付けてからしばらくは生育がゆっくりです。花が咲くまでは3年ほどが目安なので、気長に見守りましょう。
タイリンゲットウ・クマタケランとの違い
月桃によく似た植物に、タイリンゲットウとクマタケランがあります。見分けるポイントは、株の大きさと花のつき方です。
| 項目 | 月桃(ゲットウ) | タイリンゲットウ | クマタケラン |
|---|
| 高さ | 1〜3m | 2〜4m | 1〜2m |
| 花のつき方 | 房になって垂れ下がる | 月桃とほぼ同じ | 上向きに咲く |
| 実 | 球形で約2cm、よくつける | ほとんどつけない | 球形で約1cm、赤く熟す |
タイリンゲットウは、南大東島と北大東島に分布する大型の仲間です。葉の香りは月桃より重く、精油も多く含むため、月桃製品の原料にはおもにこちらが使われています。
月桃と沖縄文化の関係
月桃(サンニン)は、沖縄の年中行事や暮らしの知恵と深く結びついてきた植物です。なかでも旧暦12月8日のムーチーでは、餅を月桃の葉で包むのが定番です。香りで家を清め、葉で厄を払い、繊維で縄をなう。一株まるごとが、島の暮らしを支えてきました。
ムーチー(鬼餅)と月桃の葉
旧暦12月8日の沖縄に欠かせないのが、月桃の葉で包んで蒸した餅「ムーチー」。カーサームーチーとも呼ばれ、この日には火の神(ヒヌカン)や仏壇に供えて、厄払いと家族の健康を祈ります。「鬼餅」の字があてられているのは、鬼になった兄を妹が餅を使って退治した、という民話に由来しているためです。
作り方はシンプルで、もち粉に砂糖と水を加えてこね、月桃の葉の裏側にのせて包んだら、ひもで結んで20分ほど蒸せば完成します。
子どもが生まれて初めて迎えるムーチーは「初ムーチー」と呼ばれています。多めに作って、親戚や隣近所に配る地域もあります。
月桃の葉を使った厄除けの風習
ムーチーを包んだ月桃の葉は、食べ終わったあとも厄除けとして役目を果たします。葉を十字形に結んだものを「サン」といい、人が出入りする入口や軒先に吊るして厄を払うのです。
ムーチーを蒸したあとの蒸し汁を家の周りにまく風習もあり、どちらも鬼退治の民話にちなんだ風習です。蒸すときに立ちのぼる月桃の香りにも、家中を清める役目があるとされてきました。
暮らしの道具としての月桃
月桃は行事のときだけでなく、ふだんの暮らしの道具としても活躍してきました。
茎を包む葉の付け根のさや(葉鞘)からとれる繊維は丈夫で、サトウキビを束ねるロープや網の材料になります。
葉は、餅やおにぎりを包む天然の包装紙として重宝されてきました。月桃の葉で包むと食べ物が傷みにくいという知恵が、沖縄では昔から受け継がれています。
月桃の使い方
月桃(サンニン)は、葉、葉鞘、種子、根茎と、部位ごとに違った使い道があります。昔ながらの使い方に加えて、いまでは紙や化粧品などの製品にも広がっています。
| 部位 | 主な使い方 |
|---|
| 部位 | 主な使い方 |
| 葉 | 餅や菓子の包装、月桃茶などの健康茶 |
| 葉の精油 | 化粧品、香水、石けん、防虫剤 |
| 葉鞘(茎を包む部分) | ロープ、網、紙 |
| 種子 | 健胃薬 |
| 根茎 | 香辛料 |
| 株全体 | 畑の赤土流出を防ぐグリーンベルト |
葉の使い方
月桃の葉は、食べ物を包む、お茶にするという2つの使い方が中心です。
いちばん身近なのは、ムーチーのように食べ物を包んで蒸す使い方です。生地は葉の裏側にのせて包むのが基本で、蒸しているあいだは月桃の香りが家中に広がります。
乾燥させた葉は、月桃茶などの健康茶にも使われています。
精油の使い方
月桃の精油は、葉を水蒸気蒸留して取り出した香りの成分です。化粧品や香水、石けん、防虫剤など、暮らしのさまざまな場面に使われています。
葉に含まれる精油は、ごくわずかな量です。代表的な香りの成分には、ボルネオールやシネオール、カンファー、リナロールなどがあります。
月桃の仲間であるタイリンゲットウの精油では、カビや細菌の増殖を抑える性質も報告されています。精油を使うときは、製品に書かれた使用方法を守りましょう。
葉鞘の使い方
月桃の葉鞘(ようしょう、茎を包む葉の付け根のさや)は丈夫な繊維を含み、昔からロープや網の材料に使われてきました。
月桃の繊維からつくる紙は「月桃紙」と呼ばれています。
種子・根茎の使い方
月桃の種子は「白手伊豆縮砂(しろていずしゅくしゃ)」の名で、健胃薬に用いられてきました。根茎は、沖縄では香辛料としても使われています。
ただ、これは昔からの利用法の話です。体調が気になるときは自己判断で薬の代わりにせず、医療機関に相談してください。
農地での使い方
月桃は、畑から赤土が流れ出るのを防ぐ「グリーンベルト」にも使われています。グリーンベルトとは、畑の周辺や斜面の下側に植物を帯状に植え、水の流れを弱めて土の粒を受け止める対策です。グリーンベルト全体では、赤土の流出量を50%程度減らす効果があるといわれています。
沖縄県の資料では、グリーンベルトに適した植物として、ベチバー、ゲットウ、ヤブラン、リュウノヒゲの4種が挙げられています。
月桃に関するよくある質問
月桃とサンニンは同じ植物ですか? 同じ植物です。月桃(ゲットウ)は和名で、沖縄ではサンニンと呼ばれています。奄美や種子島ではサネン、南大東島ではソウカなど、地域によって呼び方が変わります。
月桃とクマタケランはどう見分けますか? いちばんの違いは花のつき方です。月桃の花は房になって垂れ下がり、クマタケランの花は上向きに咲きます。株も月桃のほうが大きく、高さは月桃が1〜3mほど、クマタケランが1〜2mほどです。
月桃は庭で育てられますか? 沖縄や九州南部など、月桃がもともと自生している暖かい地域であれば、庭で育てられます。土の性質を選ばず、庭先や畑沿いでは特別な管理をしなくても育つことが、沖縄では経験的に知られています。ただし高さは1〜3mほどになるので、植える場所には余裕を持たせましょう。
ムーチーはなぜ月桃の葉で包むのですか? 月桃の葉の香りには、家中を清める役目があるとされてきたからです。葉で包むと食べ物が傷みにくいという知恵も、沖縄では昔から受け継がれています。なお、クバ(ビロウ)の葉で包んだムーチーもあります。
まとめ
月桃は、昔ながらの行事を支えてきた植物であると同時に、いまも沖縄の暮らしの中で使われ続けている植物です。旧暦12月8日が近づくと、月桃の葉で包んだムーチーがスーパーや市場に並び、畑のまわりでは赤土の流出を防ぐ役目も担っています。
月桃茶や月桃紙、月桃の精油を使った石けんなど、月桃からつくられたものはいろいろあります。気になるものから、暮らしに取り入れてみてはいかがでしょうか。