
大人になってから、こんなに青春を感じる一日があるとは思いませんでした。
雨にぬれながら掛け声を上げ、初めて会った人たちと笑い、目の前の演舞に夢中になる。
祭りが終わるころには、すっかり壺屋旗頭華鳳会(かほうかい)のファンになっていました。旗持ちも、演奏する人も、周りで支える人も、団体の皆さんがそろってかっこいいのです。
2026年10月11日、沖縄ナビは那覇市観光協会が企画する「那覇大綱挽 旗頭行列 参加プログラム」に参加しました。受け入れてくれたのは地域の旗頭を受け継ぐ「壺屋旗頭華鳳会」の皆さんです。
衣装を着て、出発前の拝みに立ち会い、地域の道を歩いて祭りの会場へ。
旗頭行列に参加し、その後は大綱挽も体験しました。この記事ではその一日と観光協会が企画に込めた思いを紹介します。

旗頭の行列に、メンバーとして参加!
旗頭が上がる瞬間だけでなく、そこへ向かう時間も一緒に過ごせるのがこの体験の魅力です。
着付けから拝み、地域の道を歩く行列まで、壺屋の皆さんの輪に加わりました。
祭りの一日を過ごす
旗頭の演舞は沿道から見ても迫力があります。
今回はなんと壺屋旗頭華鳳会の団体メンバーの一員として、準備から参加させてもらえるモニタープログラム。朝から地域の皆さんと過ごし、衣装を着て、行列に加わって歩きます。
着付けのときに交わす会話、出発前の拝み、会場へ向かう途中の町の景色。
本番の演舞へたどり着くまでにも印象に残る場面がいくつもありました。
モニタープログラムが生まれた背景
この企画の背景にあったのは旗頭への熱い思いでした。
那覇市観光協会の玉村さんは、エイサーは県外でも知られるようになった一方、旗頭の魅力はまだ十分に届いていないと感じていたそうです。そんな中、旗頭の旗持ち本人から出たのが「俺たち脇役だよな」という言葉。
それは絶対に違う。
これだけの技術と誇りを持って演舞する人たちをもっと知ってほしい。その思いが今回のプログラムの出発点になりました。

この思いには旗頭を次につなぐという地域の課題も重なります。
2023年の「旗頭のまち宣言」の実行委員会資料には、後継者不足への対応とともに那覇市観光協会と連携した「旗頭行列への参加体験商品」の開発が取り組みとして挙げられています。旗頭に触れる機会を地域の外にも開いていく。今回の体験を考えるうえでも大切な背景です。
そもそも旗頭は地域の繁栄への願いを込めた、まちのシンボルとなる大きな旗です。上部に地域ごとの飾りを付け、旗持ちが高く掲げて演舞します。
私は首里出身で小さいころから旗頭に親しんできました。
しかし、旗頭について話してみると沖縄編集部内でも「旗頭……?」という同僚が。沖縄県民でも旗頭になじみのない人はいるのです。
しかし体験を終えるころにはその同僚もすっかり旗頭ファン、壺屋旗頭華鳳会推しになっていました。
衣装を着るところから始まった
最初に大変だと感じたのは衣装を着ることでした。
見ているときには分からなかった身支度の手間があります。
正式な黒衣装は「むむぬちはんたー(股引半套)」、上から締めるさらしの帯は「いったんうび(一反帯)」といいます。着付けを手伝ってもらったのですが、この帯が難しい。
おなかとの間が緩すぎると落ちてしまい、締まりすぎると息が止まりそうになります。ちょうどよく巻くのにもコツがいるのです。

実際に旗頭を持つ旗持ちは私たちとは巻き方が違い、もっとしっかり締めるそうです。おなかの前を厚くして、重い旗頭を支えるための備えをする。身支度の段階から演舞につながっていることを実感しました。
壺屋の皆さんはさっぱりと明るくて優しく、和気あいあいと準備を進める空気がどこか学校の部活のよう。初めて参加する私にとってその親しみやすさがありがたかったです。

出発前の拝みと、地域の人たちが迎える道
那覇祭り本番に赴く前、祈りからはじまりました。

拝みに感じた伝統への思い
行列が出発する前には自治会前で拝みがありました。
演舞に赴くまえにまずみんなで祈る。旗頭は人を楽しませる演舞であると同時に地域が大切に受け継いできた文化なのだと感じる場面でした。
演舞が始まってからが祭りだと思っていましたが、衣装を整え、拝みをして、地域を歩いて会場へ向かう。
その前準備から旗頭演舞の一日は始まっていました。
住宅街や細い道に旗頭を待つ人がいる
祭りの会場へ向かう途中、地域の住宅街や細い道を通っていきます。家の前やお店の前には人が出ていて行列を迎えてくれました。
旗頭が歩く道にはいつもの暮らしがあります。暮らしの中から人々が旗頭演舞を楽しみに顔を出して見守っている。旗頭が本当にこの地域の人たちに愛されているのだと思いました。
また、地域ごとの団体がすれ違う際に和やかに挨拶を交わす様子も印象的でした。演舞の力強さとはまた違う、人と人のあたたかいつながりが見える時間です。



旗頭を支える仲間たち
旗頭を高く掲げる「旗持(はたむち)」は、もちろん目を引きます。
でも一緒に歩いていると、ほかにもたくさんの人が祭りをつくっていることに気づきます。
太鼓や鉦などを鳴らすチンク隊も旗頭の演舞をつくる仲間です。楽器の音と「サーサー」という掛け声に合わせ、旗持ちが次々と交代しながら演舞をつないでいきます。
爆竹の担当は柄の付いた金属製の筒を持ち音と煙で演舞を盛り上げます。
飲み物を載せた押し車を運ぶ人もいて行列を歩き続ける皆さんの水分補給を支えていました。演舞をする人だけではこの一日は成り立たないのです。
またそれぞれの部隊にはそれをとりまとめる長たちの存在が欠かせません。
演舞を見るときは腕章もぜひ注目してみてください。
華鳳会では「天・地・水・火」の4班に旗守護を置き旗守護長が班をまとめ、旗指揮が全体を統括しています。
子ども隊の子どもたちも朝から夕方まで本当によく頑張っていました。
大人たちと一緒に長い一日をやり切る姿が頼もしく、こうして地域の祭りに加わる経験が次の担い手にもつながっていくのだと感じました。
| 用語・役割 | 簡単な説明 |
|---|---|
| 旗頭(はたがしら) | 地域の繁栄への願いを込めた旗。地域ごとの飾りや旗字があり、高く掲げて演舞する。 |
| 旗持(はたむち) | 実際に旗頭を持って演舞する人。仲間と交代しながら演舞をつなぐ。 |
| 旗指揮(壺屋旗頭華鳳会) | 団体の全体を統括する役割。華鳳会の公式投稿で紹介されている。 |
| 旗守護・旗守護長(壺屋旗頭華鳳会) | 華鳳会の天・地・水・火の各班に置かれる旗守護と、班をまとめる旗守護長。 |
| チンク隊 | 行列や演舞を音で支える楽器隊。太鼓を打つ人は「てーくうち」、鉦子を打つ人は「しょーぐうち」、法螺貝を吹く人は「ぶらふち」と呼ばれる。 |
| 子供隊 | 今回一緒に参加した子どもたちの隊。朝から夕方まで行列に加わっていた。 |
| 爆竹 | 爆竹の音と煙で演舞を盛り上げる担当。今回の現場では、柄の付いた金属製の筒を持って行列に加わり、旗持ちたちの演舞を音で支えていた。 |
| 給水用押し車 | 飲み物を載せた押し車を運び、旗持ちや楽器隊、子どもたちの水分補給を支える。長い行列と演舞を裏から支える役割。 |
| 道ジュネー | 地域の道を練り歩くこと。今回は住宅街や細い道も通って会場へ向かった。 |
| ガーエー(我栄) | 旗頭を掲げ、掛け声や音とともに互いの意気を示して競演する場面。 |
| 東(あがり)・西(いり) | 旗頭が分かれる東西の組。那覇大綱挽の公式旗頭は、東7旗・西7旗の計14旗。 |
| 一番旗/東一番・西一番 | 東西それぞれを代表する伝統の旗。東は「大結」、西は「八卦」。東一番・西一番は担い手の実行委員会の名称でもある。 |





雨の中で感じた技術と熱量
2026年那覇大綱挽祭りは例年ないくらいの雨の中行われました。
旗頭が集まる迫力
国際通りでの演舞を経て、国道58号の会場に全14旗がそろいガーエー(我栄)が始まりました。
いくつもの旗頭が高く上がり、独特の掛け声と楽器の音が重なる。
各団体の名前や歴史を一つずつ知らなくてもその迫力だけで圧倒されてしまいます。
東(あがり)に属するのは、東一番、安里、壺屋、泊、久茂地、首里、真和志。
西(いり)に属するのは、西一番、辻、久米、若狭・松山、垣花、泉崎、小禄。それぞれ7旗ずつです。
東一番・西一番は東西それぞれを代表する伝統の一番旗と、その旗を受け継ぐ団体の名前です。
東は「大結(うふむすん)」、西は「八卦(はっち)」。名前の意味や各地域の旗は旗頭の解説と14旗の紹介記事で詳しく案内しています。
あんなに大きく重い旗頭を一人で持ち上げて演舞する。その周りには支える仲間がいて、旗持ちが次々と交代しながら演舞をつないでいく。
高く掲げた旗頭の動きには、こちらまで息をのむような独特の緊張感があります。掛け声も、音も、人の動きも、全部に引きつけられました。
大きな旗を持っているだけじゃん…と思っている人ほど、一度現地で見てほしいです。動画では伝えきることができない緊張感、熱気、持ち手の技術、すべてを自分の目で確認してください。
地域ごとに異なる旗頭の意匠も見ていて楽しいところでした。気になる形を見つけるとどこの地域なのか、どんな意味があるのかを知りたくなります。
雨で難しさが増す中でも演舞は続いていた
当日は雨でした。
雨が降ると旗頭は水を吸って重くなり、バランスを取るのが難しくなります。手も滑りやすくなる。その条件の中で旗持ちは屈することなくみんなで一丸となって演舞を続けていました。
途中には爆竹に火がつきにくくなるほど雨が強まる場面もありました。それでも旗頭は上がる。
雨の中で演舞を続ける姿はとんでもなくかっこよかったです。
雨で残念な一日になるかと思ったのに、むしろこの雨の中でも上げ続ける技術と熱気を体感できてよかったのかもしれない。そう思うほどの感動と迫力でした。



大綱挽で、知らない人とも夢中に
旗頭行列を経たあとは皆で大綱挽へと臨みます。
綱をつなぐ準備の時間から、もう楽しい
ガーエーの後はいよいよ大綱挽へ。
まず驚いたのは東と西の綱を中央へ引き寄せつなぎ合わせるところから始まることでした。沖縄県民なのに綱をつなぐ作業があること自体、恥ずかしながら今回初めて知りました。
私も周りの人たちと綱を握り中央へ向かって引っ張ります。
まだ東西の勝負は始まっていないのに、もう楽しい。見ず知らずの人たちと同じ方向へ力を込める一致団結感にすっかり夢中になっていました。
しかし、この日は雨水を吸った綱が重くなかなか動きません。二つの綱を「かぬち棒(頭貫棒)」でつなぐため、とうとうクレーン車まで出動しました。那覇大綱挽では初めての対応です。
中止にするのではなく何とか綱をつなぎ、この大綱挽を実現させようとする。その場で対応していく人たちの姿に、祭りへの強い思いを感じました。
知らない人と笑い合う
綱の周りには県内の人だけではなく県外や海外から来た人も入り交じっていました。
初めて会った人同士が同じ綱を力を込めて引く。大人になってからこれほど大勢で何かに熱中する機会があっただろうかと思います。
綱の上から挽き手に声をかけてくれる人たちがいます。綱元と呼ばれる掛け声などの指揮をとってくれる人です。
私たちの近くにいた方々は優しくて、おちゃめ。ずっと那覇大綱挽に関わっているけど、こんな大雨は初めてだと笑っていました。明るく面白い綱元さんたちのおかげで綱引きがより楽しかったです。

雨脚が強まっても周りの人たちと一緒にきゃっきゃと騒ぐ。
少し太陽が見えただけで大喜び。
いい年をした大人たちが天気が変わるだけでこんなに楽しそうに声を上げている。私もその一人です。
天気は雨でしたが会場の熱気とみんなの楽しそうな声はつづいていました。
東も西も「勝った!」と大喜び
結果は引き分けでした。
しかし東チーム、東が勝ったと思って周囲の人たちと大はしゃぎ。後から聞くと西側でも同じように自分たちが勝ったと喜んでいたそうです。

みんなで綱を握って、全力で引いて、最後に喜ぶ。
勝ち負けを超えてあれだけ大勢で一つのことに取り組む時間そのものが、たまらなく楽しかったのだと思います。
終盤には雨が上がり虹も出ました。雨の中で力を合わせた後の空は出来すぎていると思うほどドラマティックでした。
本番の盛り上がりだけでなく綱を寄せる準備や雨を一緒にやり過ごした時間まで含めて、大人になってから一番青春を感じた体験でした。



混雑の中での注意点
楽しかった一方で綱を引く周囲は人が密集していました。
私も隣り合う綱の間で体が圧迫され、痛さや苦しさを感じる場面がありました。
小さな子どもと一緒の方や人混みが苦手な方は、どうか無理をしないでください。
係員の案内に従い、混雑が激しいときは中へ入らず、見やすい場所から楽しむのも一つの方法です。
壺屋へ戻るまでが祭りの一日
大綱挽を終え朝に出発した壺屋へ戻っていきます。
朝から一緒に準備し、歩き、雨の中で祭りをやり切った皆さんの顔を見ると一日が終わる実感が湧いてきました。
その表情を見ながら、改めてかっこいいなと思いました。
演舞に真剣になる時間、気迫が溢れでて少しだけガッと怖い瞬間、ふっと力を抜いて笑う時間の両方が垣間見えたのは体験プログラムに参加できたからこそ。
朝から大人に交じり頑張ってきた子供、実は終盤になると掛け声の「ハーヤー」を、ばれないように「もーやー(もうやだ)」に変えている子もいるのだとか。そんな可愛い裏話を聞くことができたのも一日をずっと一緒に過ごすことができた特典です。
今回のプログラムは希望すれば打ち上げまで参加できます。
一日を一緒にやり切った皆さんと、その後も過ごせるのがうれしいところ。行列が終わったら解散するだけでなく地域の輪の中で一日を締めくくれる。旗頭体験プログラムは地域のあたたかさと誇りを感じることができるとても素敵な取り組みだと思います。

気になる旗頭を見つけて、見に行くことから応援したい

旗頭の担い手の減少や高齢化は地域が抱える課題です。
那覇市の文化芸術基本計画でも継承者に加えて練習場所や保管場所の確保が課題に挙げられています。以前に比べ、地域や青年会との関わりが薄くなっているという話も今回の取材で教わりました。
これからも旗頭の演舞が見たいし、皆さんが旗頭を上げる姿をこれからも追いかけたい。
次に祭りへ行けば当たり前に会えると思っていた景色も、受け継ぐ人がいなければ続きません。あの熱気も地域の人が家の前に出て迎える光景もこれから先まで続いてほしいと切に願います。
壺屋旗頭華鳳会を含む旗頭団体のいくつかは、その地域に住んでいなくても参加が可能です。
旗頭に加わってみたい…と、少しでも思った方は推しの団体にコンタクトを取ってみるのもいいかもしれません。
いきなり参加するのは勇気がいる、という方は、まず現地で演舞を見て、気になる旗頭を見つけてみてください。
SNSで活動を追い、また見に行く。そんな「推しの旗頭」を見つける楽しみ方もあります。見に行って応援することから関わってみませんか。
旗頭になじみがない方や動画や記事を見て「何かすごそう」と少しでも気になった方は、ぜひ現地へ足を運んでほしいです。実際に目の前で見ると迫力も熱気もまるで違います。
今回の体験で私を含む沖縄ナビ編集部はすっかり旗頭のファンになりました。これからも旗頭のイベントも追いかけて、また皆さんの演舞を見に行きたいです。
2026年時点では今回の旗頭体験プログラムはまだ準備段階。
那覇市観光協会の旗頭プログラムが正式なプログラムになったときには、ぜひ参加を検討してみてください。地域の人たちと一緒に過ごす一日は沿道から見るときとは違う楽しさがあります。

今回参加したプログラムについて
| 名称 | 第56回 那覇大綱挽 旗頭行列 参加プログラム |
| 実施日 | 2026年10月11日(日) |
| 企画運営 | 一般社団法人那覇市観光協会 |
| 受け入れ団体 | 壺屋旗頭華鳳会 |
| 協力 | 一般社団法人那覇大綱挽保存会/那覇市旗頭のまち実行委員会/壺屋旗頭華鳳会 |
本記事は今回の参加体験を紹介するものです。
今後の実施や募集の有無、参加条件は那覇市観光協会の公式発信でご確認ください。
那覇市観光協会の公式サイト
参考資料
那覇市「旗頭のまち宣言」実行委員会資料(参加体験商品の開発・継承の課題)
那覇市『文化芸術基本計画』第4章/壺屋旗頭華鳳会の公式投稿「腕章配布式」(2022年10月8日)/泊小学校「スタ場」第44号(2024年)
2026.10.29

